傀儡の恋

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 食堂でしばらくゆっくりとしていればラクス達が顔を見せた。
「そういうことで、わたくし達はプラントに行ってきますね」
 唐突にラクスがこう言ってくる。
「はぁ?」
 いきなり何を、とキラが目を丸くした。
「ずいぶんと唐突だね」
 ラウは目を細めるとバルトフェルドをにらみつける。
「オーブの軍人達から連絡が入った。こちらに合流したいと言っている。カガリのこともあるから許可を出した」
 それをきれいに受け流してバルトフェルドはこう言った。
「連中がカガリのフォローに入ってくれるなら心配は減る。キラにはお前もいるからな」
 それに、と彼は続ける。
「ラミアス艦長を含めてこの艦のクルーは歴戦の猛者だ。相談相手としては十分だろう?」
 そう言われてラウは苦笑を浮かべる。
「私あるのは知識だけですよ」
 この体での経験はそう多くない。それなのに任せて大丈夫なのか、と言いたくなる。
「大切なのは気持ちですから」
 ラクスが微笑みながら言葉を口にした。
「実力は精進していれば上がっていきます。ですが、気持ちが伴わなくては何の意味もありません」
 無駄なだけです、と続けた彼女の脳裏に思い浮かんでいるのは誰の面影か。
「あなたはキラを守ってくださるでしょう?」
 まっすぐにラウへと視線を向けながらラクスは疑問の言葉を投げかけてくる。
「あなた自身として」
 本当に彼女は怖い。
 真っ先に浮かんできたのはこの言葉だ。
「そのつもりですが?」
 そうでなければここにいない。必要ないと言われてもブレア達の元に戻っただろう。
 いや、それ以前に生きることをやめていたかもしれない。
「ですから、安心できるのですわ」
 ラクスはそう言うと笑みを深めた。
「少なくとも、あなたとカガリはキラを傷付けない。そう断言できます」
 自分にとって重要なのはそれだけだ。彼女はそうも付け加える。
「ラクス」
 キラが困ったように彼女の名を呼ぶ。
「わたくしがあなたを守りたいと思ってはいけませんの?」
 だから、キラのそばにいる人間を選びたいのだ。ラクスがそう言って笑みの色を微妙に変える。
「世界を救うのは力ではない。そう実証して見せてくれたのはあなたですもの」
 大切なものを守りたいと言うキラの願い。それが終戦への道筋を作ったのだ。ラクスはそう言い切る。
 確かにそうだろう。
 キラがいたから動いた者達も多い。それを否定できるものは少なくともここにはいない。
「まぁ、大まかにはカガリの意見を聞いておけばいい。お前が『無理だ』と判断したことは他の人間でも無理だろうし、拒否してもいいだろう」
 バルトフェルドが今後の行動を指示してくる。
「そのあたりのことはお前が判断してやれ」
 さらにこう付け加えられた。
「判断するのはキラです。私はあくまでもあの子の補助ですよ」
 ラウは即座にこう言い返す。
「そういうことにしておくか」
 バルトフェルドはそう言うと視線を移動させた。

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最遊釈厄伝